「夜明けに、月の手触りを」から、展

【「夜明けに、月の手触りを」から、展】はじまりから、その日までの軌跡

改めて《『夜明けに、月の手触りを』から、展》について

7月、オンラインの第0回ミーティングでタイトルを考える会議からスタートし、
じわじわと始まった『夜明けに、月の手触りを』から、展 について、
改めて今回の取り組みと、現時点の概要を書いておこうと思います。

 

まず、タイトルにもなっている『夜明けに、月の手触りを』という、企画者の藤原佳奈が2013年、26歳のときに初めて書いた長編戯曲(演劇の台本)があります。

 

 

これは、藤原が大学卒業後関西から上京し、東京で暮らしながら、30歳を目前に感じる手触りを残しておこうと書いた戯曲で、東京で暮らす5人(芸人、アパレル店員、広告代理店勤務、保育士、研究者)の20代後半女性がそれぞれ、結婚や出産、将来への不安や女性らしく生きる難しさなど心情を語るモノローグ(一人台詞)を軸に構成されています。

戯曲の試し読みこちらから▷

note.com

 

『夜明けに、月の手触りを』は、2013年に藤原が代表を務めていたmizhenという演劇ユニットで上演し、その後新人戯曲賞最終候補にノミネートされたことをきかっけに、2016年に再演されました。

初演の2013年から10年たった今ですが、振り返ると、2017年に日本でも#me tooムーブメントが広がり、2018年には東京医科大の女性一律減点の問題が発覚し、この5,6年の間のジェンダーをめぐる言論の変化はめまぐるしいものでした。

10年前の藤原は、特にフェミニズムの問題を描こう、と意識して書いていたわけでもなく、フェミニズムの歴史についても全く知識がありませんでした。
「生きていく中で“女”をやらなくてはいけないことにモヤモヤするなあ、これはなんだ?」と、ただその手触りを残すためだけに書いたので、今読み返すと語り口は曖昧に思え、背景にある問題を問題として捉えられていない時期だったことが分かります。
2017年以降に同じ題材で書いたとしたら、あるいは、上演したとしたら。全く違うものになっていたはずです。改めて10年前の戯曲として読むと、この10年の時代の変化、自分の年齢(26歳~36歳)の変化を感じました。

この戯曲を、今まさに上演すべきものとして取り扱うのではなく(それにはあまり意味がない気がします)、
「10年前、東京に住む26歳の女性が、当時の手触りを残そうとして書いたもの」として真ん中におき、
戯曲を基に面白い作品を立ち上げることへ向かうのではなく、
職業や年齢・性別問わず様々な人が戯曲に触れ、触れたことからそれぞれの今を見つめる、わたしとあなたの手触りを見つめるために、戯曲を使う。

わたしたちが戯曲に従事するのではなく、わたしたちのために戯曲を媒介にする、そのような在り方で、企画を進め、場をひらいてみたいと思いました。

そういうきっかけとするには、『夜明けに、月の手触りを』は、ちょうど良い戯曲で、そして今(2023年)が、自分にとっても、戯曲にとっても一番良いタイミングだと思ったのです。

様々な人と言葉を交わした暁には、10月13日~15日、上田の文化施設犀の角を会場として何かしらの場をひらきます。
決めているのは、3日間の会期中は展覧会のように会場に常時出入りができる状況にすること。(これは、所謂現在劇場と呼ばれるものの多くが、昼公演、夜公演の間だけ扉を開け、それ以外の時間は閉じた場となっていることが気になっているからです。私達の特別な交差点として、劇場をひらきたいと思いました)
それ以外のことは、具体的にはまだ何も決まっていません。そのため、冒頭に現時点での概要、と書いていました。

予め決めることを極力なくし、出会った人と交わした言葉から、次の動きを決めていく、という形で進めているので、これまでにないくらい色んな方に相談もしています。(そして、こういう先を決めない形に振り切ろうと思ったのも、はじめに犀の角オーナー荒井さんに相談したことがきっかけでした)
青写真はなく、種だけがあるところからはじまった『夜明け』との旅路は、様々な言葉を交わしながら、1カ月でニョキニョキと芽を出し、これからどこかへ進みたそうな顔をしていますが、ひっぱったり水をやりすぎたりしないよう、焦らずに伸びるべき方向に伸びていくのを、待っています。

7月は、『ここに、台本がある』と題し、
14日15日21日27日 と、4日間、毎回夕方頃から21:30まで犀の角カフェの一角で、台本と藤原がただ居る、というだけの場を作りました。
来てくれた人と言葉を交わしたり、台本を声に出して、その感触について話したりする時間は、毎度発見のある不思議な場でした。毎回このブログに記録を残していますが、私以外の参加者の目線での記録も随時掲載していく予定ですので、是非読んでいただければ嬉しいです。

当初一人で始めた企画なので、犀の角がある上田1か所の開催で手一杯になると思い、他地域で何か場をひらくことを想定していませんでしたが、
7月の4日間を経て、この企画は、題材にもなっている東京と、現在藤原が居住している松本でも開催した方がいいと確信し、8月8日現在、東京と松本の準備も進めています。
(あと、オンラインでも何かできないか、と考えていますが、まだそこまで手がまわっていません。。何か動き次第お知らせいたします。東京でのイベントは、9月17日に開催する予定です。また近々改めてご案内します。)


10月の13日~15日の犀の角では、現時点で何をやるかはまだ決まっていませんが、何か“公にひらく”形にはしたいと思っているので、何かしらの公演になるのかな、と思っています。といっても、公演とは何か。公演をどう捉えるか? ということから考えていくと、一般的にイメージされるいわゆる演劇公演のようなものとは違った形になるのかもしれないし、人もおらず展示がしてあるだけになるかもしれないし、がっつり演劇公演のようになるかもしれないし……全く、分からないです。

8月は、引き続き『ここに、台本がある』を犀の角でひらき、まだまだ色んな方と出会えたらと思っています。職業・年齢・性別不問ですので、関心がある方はふらりと遊びにいらしてください。

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これまで、作品のために人がある、という状況が多かったのではないか。あらゆるハラスメントが起きてきたのも、そのせいではないか。“ワタクシ”が、大きな顔をしすぎたのではないか。どんな人でも、それぞれが生きていること以上に重要なことはないし、その人の存在以上に優先されるべきことはない。
それなのに、わざわざ人が集って場をひらくとは、どういうことなんだろう。

このことを考えながら、企画を進めています。


『夜明けに、月の手触りを』から、展 引き続きご注目いただけたら嬉しいです!

 

藤原佳奈