「夜明けに、月の手触りを」から、展

【「夜明けに、月の手触りを」から、展】はじまりから、その日までの軌跡

記録⑱:9月14日『ここに、台本がある~創作場~』

9月14日の振り返り記録。

この日の数日前、Mさんが戯曲を読んでパートナーと対話をした、と言って、パートナーの許可をいただき、二人が話す音声を録音したものを聞かせてくれた。

パートナーのように関係が近いと、ジェンダーのことについてなかなか腹を割って話せないのかもしれない、話してみて、少し難しさがあった、と、Mさんは言った。
でも、もう少し対話を続けたい、と。

この日は、東京からIさんも参加し、上演参加メンバーが全員揃った。
そして、上演には参加できないけれど、前回参加してくれたSさん、以前に一度『ここに、台本がある』に参加してくれたKさんも参加。

わたし以外ちょうど6名いたので、聞き書きを試してみることにした。

『夜明けに、月の手触りを』を読んだそれぞれの感触について、
3人で一つのグループになって、①語る人 ②聞く人 ③言葉を書き留める人 の役割を分けて一巡し、それぞれの言葉を聞き合った。

役割がはっきりしているから、これまで以上に語る人の言葉を改めてじっくり聞く時間となった。話していると、あっという間に時間はすぎる。
その後、書き留めた言葉をそれぞれが抜粋して場に共有した。
他者の声で読まれる自分の語りは、自分と出会い直すようで不思議な感覚なんだなあ、と参加者の反応を見ながら思った。

 

「わたし、この人と友達になれるわ~と思ったけど、これ自分だった。」と、Iさんが笑って言った。

Sさんは、この日話したことは、実はカウンセリングで話したことがあるのだけれど、それ以外では話したことがなかった、と言った。

「ほんとは、誰かに言いたかったんだと思います」

誰かの言葉を、否定せずにただじっと聞く、ということは、とてもシンプルなことだけど、なかなか機会がない。
こういう場がもっとあってもいいのに、と、Sさんの言葉を聞きながら思った。

Sさんも、Kさん(この日の参加者の中で唯一母を経験している)も、上演には参加できない。それでも、足を運んで、一緒に対話をしている。この日二人が参加してくれて、ほんとによかったな、と思った。

いわゆる演劇の上演に向かう稽古場だと、上演にどういうメンバーが参加するかは予め決まっている。“ワークインプログレス”という形で途中経過を公開することはあるけれど、こんなに上演参加者とそのまわりがグラデーションになる場は初めてだった。というより、どのタイミングであれこの企画に立寄ってくれた人すべてが参加者か・・・?

宣伝美術の打ち合わせをするときに、
大沢さんにこういう、台本や企画と色んな距離でいる感じにしたい、と絵を描いて伝えたことを思い出した。

結果この絵をのようになれているのかもしれない。

切実な話をずっとしている。
これは演劇なのだろうか? これこそが演劇なのか?

何かを名付ける、ということが、ことごとくしっくりこないけれど。
一歩ずつ、場が耕されていっている。



記:藤原佳奈